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今回のウクライナ戦争で義勇兵として参加した多くの元米軍兵士など欧米の元兵士らが、これまで経験したことのない正規軍同士の総力戦を前にして脆くも崩れ落ちていく傾向にあるようです。

私は以前から自衛隊と米軍やフランス軍などの先進国の軍では、どちらの方が優れているのか、強いのか、訓練は良いのかなど、自衛官などによく聞かれたりします。

そもそも自衛隊とその他先進国の軍では全く異なるドクトリン(戦闘教義)であり、別物だということです。

自衛隊は、高強度型、つまり正規戦の通常戦争、特に総力戦における本土決戦を想定していることに対して、米軍やフランス軍などは低強度紛争、つまり非対称戦、不正規戦、対ゲリラ・対テロ戦を主としています。

従って、その目的そのものが違うので、訓練の内容や装備に対する考え方も大きく違ってきます。

フランス軍や米軍などでは、近年までの実際の任務は、アフガンやイラク、アフリカにおける対テロ、反政府武装勢力の鎮圧等が中心でした。

正規軍相手の戦争は、フランスは湾岸戦争が最後であり、米軍はアフガン、イラク戦争が最後です。

そのどちらも、通常戦争は、ほとんどは圧倒的武力によって一瞬で終結して、あとは残党の掃討、鎮圧が長引いた状態です。

つまり、米軍やフランス軍の実任務のほとんどが低強度紛争であり、敵となるのは大抵の場合、軽装備で小規模の武装勢力となります。

その一方、特に陸上自衛隊は先の大戦と同じく、制空権、制海権も失ったことも想定した内容であり、敵の航空機による爆撃や大火力による砲撃、落下傘部隊による襲撃、機甲部隊の攻撃、さらにはNBC攻撃(核や生物・化学兵器)等に対して、いかに戦うかを常に訓練しています。

だから、とにかく防御戦闘に関しては、信じられないほど強固な掩体構築や鉄条網、地雷原敷設など徹底して末端の部隊まで陣地構築能力、有線を使用した通信の確保、どんな訓練でも常に防護マスクを携帯してNBC兵器対策に備えているなど、他の先進国とは比べ物にならないほどの高強度の戦力に対する強靭な戦闘継続能力を保有しています。

陸上自衛隊は、どんなに空爆や艦砲射撃、NBC攻撃、核攻撃等で徹底して攻撃しても、強固な防御陣地の中で持ちこたえ、地上部隊の進攻を徹底抗戦して死守するという、とんでもない手ごわい部隊です。

そのため、基本的に訓練は掩体構築、つまり穴掘りがメインとなり、装備もごちゃごちゃしたものは、穴掘りや掩体の中に配置している時などでは逆に邪魔になるので、軽装備の弾帯とサスペンダーの方が身軽で向いています。

またかなり豊富な対戦車火器を有し、対機甲戦闘も相当なものです。

自衛隊の演習は非常に地味で、泥くさいですが、これが通常戦争における本土決戦では、最も有効な訓練だと思いました。

私がフランス軍で経験した訓練や実戦は、対ゲリラ戦など非対称戦であり、こちらは圧倒的な航空機や砲撃での支援、充実した後方支援がある中、逆に敵は航空機も戦車も艦隊も155mm榴弾砲や120mm迫撃砲も無く、基本的に旧ソ連製である軽火器を中心とし、RPGなど携帯式対戦車ロケット、82mm迫撃砲、地対地のロケット砲、IED(地雷や簡易手製爆弾)などを想定したものです。

従って、対人軽歩兵戦闘が中心であり、SUT(小部隊歩兵戦術)や市街地戦などが訓練の中心であり、逆に強固な陣地を攻撃したり、地雷や障害を構成したりする高度な陣地防御戦闘の訓練は自衛隊より遥かに少ない傾向にあります。

私もフランス軍において自衛隊の様な掩体構築の訓練は、歩兵科軽火器課程の時に1回だけ体験的にやったくらいです。(しかも小さい露天掩体くらい)

ほとんどの人は穴掘り(掩体構築の)などやったことがないというのが現実で、自衛官が聞くと皆さん驚かれます。

確かに実際に敵の脅威のあるチャドやアフガンの任務では、たこつぼなど露天掩体や土のうでの防御掩体はやりましたが、自衛隊のものとは比べ物にならないほどお粗末なものでした。

よって、自衛隊とフランス軍などでは、そもそも全く違う前提の訓練をしているので、どちらが優れているとは比べようがない状態なのです。

フランス軍で経験したことは、自衛隊で活かせる部分もあれば、活かせない部分もあります。

そういう点で言えば、近年における米軍の戦闘経験はほとんどがイラクやアフガンなどにおける低強度紛争が中心であり、その経験や技術が全て陸上自衛隊に当てはまる必要なものとは限らないということです。

陸上自衛隊のドクトリンをしっかりと踏まえたうえで、慎重に検討して他国からの教訓を精査する必要があると思います。

米軍など欧米諸国がこれまで約20年間の戦争の結果、対テロ戦争に特化してしまったことで本来あるべき正規戦のノウハウが廃れてしまったことが露呈したと思います。

それらを踏まえ、私はこれまでの経験を自衛隊という環境下でいかに適用し、応用させるかを研究して、多くの自衛官に伝えて行きたいと思っています。

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