安倍元総理の襲撃事件でも露呈しましたが、日本において国際水準の警備教育がなされていない問題が明らかになりました。
これは警察のみならず、自衛隊でも同じ現状と言えます。
国際基準の「警備(security)」とはどんなものなのか、それを理解し、教育普及する必要が早急な課題となると思います。
陸上自衛隊が行う駐屯地の警備は、「警衛」であって「警備(security)」ではありません。
「警衛」は儀礼的要素が強く、基本的に民間警備会社の警備員が行っていることと本質的な部分においてほとんど大差はなく、警備に必要な高度な専門知識や装備、対策も国際水準とは言えない状態にあります。
通常の駐屯地警備において、どうやって脅威の情報を収集・分析・評価し、どの様に対応して防止・回避させるのか、部隊を防護するための構造上の防護施設や保安システムの構築、対テロを含む物理的保安対策、諜報・情報機関からの情報収集や分析、また実際に武装したテロリストに襲撃された時の対応やIEDを仕掛けられた時、爆弾を積んだ車両で強行突破された時、人質をとって立て籠もった時など、どうやって検索・識別・対応・処理するのか、そういった訓練や装備がまだまだ不十分だと思います。
(中央即応連隊は例外的に、本格的な警備訓練を行っている唯一の部隊だと思います)
陸上自衛隊がいるのは駐屯地(Camp)であり、臨時に駐屯しているだけで、土地そのものはさほど重要ではありません。
また例え、駐屯地が攻撃を受けて損害が発生しても、一個人としては大きな被害ではあっても、国防上、戦略的にも致命的な影響はありません。
しかし、空軍や海軍の基地警備は全く別物です。
基地(Base)はそこから動かすことの出来ない国防上の重要施設です。
戦闘機、イージス艦、潜水艦、空母などが多数存在する基地が被害にあった場合には国防上、危機的な被害を被ります。
一旦、洋上に出た艦船や潜水艦、飛び立った戦闘機を撃破することは、大部隊を持ってしても至難の業ですが、停泊している艦船や格納されている戦闘機であれば、数名の武装工作員やテロリストでも基地に侵入して破壊することが可能であり、その方が遥かに容易です。
従って、米海軍や米空軍では、法執行(Law Enforcement)、部隊防護(Force protection)、対テロ(Anti-Terrorism/Counter-Terrorism)の訓練を受けた専門職種の部隊が基地警備を担当します。
そこが決定的に違います。
海上自衛隊や航空自衛隊でも基本的に同じですが、まだまだ能力、訓練、装備などが不足しています。
そもそも陸上自衛隊には戦闘における防衛という概念や訓練はあっても、国際基準の警備(security)の概念や訓練を受けられる機会はかなり少ないと思います。
戦闘における防衛の様に単純に武力による防衛や迎撃などは訓練されていても、警備(security)では全く異なる技術や知識が必要になります。
警備(security)には、事前(Anti)対策と事後(Counter)対策があり、どのように未然に防ぐかを対策する事前対処が全体の90%で、事後対処は10%ほどです。
どんなセキュリティ対策も100%完璧なものは不可能であり、それでも防げなかった最悪の事態に対応するのが事後対策です。
しかし、襲撃者は「いつ、どこで、何を(誰を)、どのように」やるかを選べ、どこにどんなものがあり、どこが弱いかなど調べあげ、確実に成功する瞬間を狙って襲撃して来ます。
そんな相手にどんな対策をしていても攻撃を受けた時点で防げるかは運でしかありません。運に頼ったものを警備(Security)とは言いません。
だからこそ、事前対策が重要になって来ます。
もちろん、事後対策を軽視しているのではありません。
射撃やCQC(近接格闘)、CQB(近接戦闘)、IED対処、アクティブシューター対応、武装工作員やテロリストの制圧訓練等の事後対策も充分行っている前提があるからこそ、事前対策が活きてきます。
具体的にどの様な事前・事後対策があるかはセキュリティ上、テロ対策上、詳しくは話せませんが、私は自衛隊や外人部隊を除隊してから、ようやく国際基準のセキュリティを学ぶことが出来ました。
今後、こうしたこと自衛官に伝えて行きたいと思っています。