0 0
Read Time:1 Minute, 6 Second

私が所属していたCEA(偵察支援中隊)は、基本的に連隊の先遣部隊として少数で敵地に先行して潜入し、偵察、情報収集、長距離狙撃が主要任務となります 。
第2外人落下傘連隊に配属されると、まず「基本降下課程」を修了し、その後に中隊配属になると「小部隊戦術課程」を受けます。
そこからさらに多くの教育課程を受けることになります。
この連隊は、各中隊に専門課程が存在し、第1中隊は「市街地戦」、第2中隊が「山岳戦」、第3中隊が「水陸両用戦」、第4中隊が「狙撃、破壊工作」、偵察支援中隊が「偵察、情報収集、長距離狙撃」などに分かれています。

さらに、対戦車ミサイルや狙撃、迫撃砲などの「戦闘専門課程」、衛生救護や通信、車両整備などの「専門特技課程」、対ゲリラ戦教育である「コマンドー課程」、大型車両や装甲人員輸送車など運転教育である「装輪操縦課程」、他にも駐屯地における恒常業務に必要な教育であるラッパ、調理、落下傘梱包などの「業務課程」等、各課程教育を順々に履修して行きます。

私はチャド共和国から帰還後に、約2か月間の「偵察・対戦車ミサイル課程」を受けることになりました。
偵察支援中隊で実施される「偵察・対戦車ミサイル課程」の主要な教育内容は、偵察、情報収集、長距離狙撃、火力支援要請、戦場監視で、少数で敵支配地域内に潜入して、担当地域内の偵察及び監視、また状況に応じて、火力支援や車両・防御陣地などに対しての射撃、敵ゲリラに対しての長距離対人狙撃を行います。

この教育で使用されるのは「MILAN(ミラン)」とよばれる第2世代の対戦車ミサイルで、最新の兵器ではありませんが、主要活動地域のアフリカや中東などの反政府武装勢力には充分で、 射程は1900mで発射機は16.4kg(MILAN3は17kg)、ミサイルは約13kgあり、有線での直接誘導方式 です。

MILANは、非常に優秀な監視器材でもあり、昼間において4000m以内の敵情を監視、認識できます。(夜間なら2000mまで)
フォークランド紛争において、イギリス軍の特殊部隊であるSASがMILANを使用して、アルゼンチン軍の強固な重機関銃陣地や狙撃手を長距離から次々と撃破した例などが有名です。

この教育は非常に苛酷で、長距離狙撃課程やコマンドー課程と並んで厳しいものとなります。
なぜなら、通常の兵士より遥かに超重量の装備を持ち、他の中隊とは違い、中隊単位や小隊単位などの部隊行動はせず、少数で作戦行動をして潜入、地図判読、監視・観測、偵察、通信、射撃、離脱など、独立して行動する能力や技能、体力、精神力が不可欠だからです 。

また、輸送機からの空挺降下が可能ですので、ミサイルや発射機が入ったコンテナに落下傘を取り付けて、実際に人員と一緒に降下する訓練も行います。

私が受けた時は、真冬の山岳地帯で実施されて、凍てつく寒さや雪など低体温症との闘いでもあり、さらに毎晩寝ることはほとんど出来ませんでした。
教育初日の早朝、手ぶらで走る教官を先頭に、我々は80kg以上あるミサイルが入ったコンテナを2人で1つ持って、山道を2時間以上も走るところから教育は始まりました。
その重さで体力的にも大変でしたが、それ以上にコンテナの取っ手を掴んで運んでいたので握力が途中で限界に達し、そこでズボンからベルトを外して取っ手と手首に巻いて何とか運び切りました。

また、毎晩深夜に訓練用手榴弾の爆発で叩き起こされ、目隠しをされて車両に乗せられ、どこかも分からない山の中に置き去りにされ、現在地を特定して一人50kg以上を背負って明日の朝礼までに目的地に戻ってくる行軍やコンパス行進などをやりました。
そして、行軍から戻ったら、そのまま一睡も出来ずに今日一日の訓練が始まります。

しかも酷い時は、完全武装50kgの装備にさらに化学防護衣を着込み、ガスマスクを装着した状態で地図判読しながら山岳行軍し、定期的に現在位置の座標を報告しつつ、時間以内に目的地に到着しなければならず、間に合わない場合はその装備のまま走っていきました。
到着してすぐに8km走で、その装備を背負ったままを1時間半ほどかけて走りきった時はみんなもう限界寸前でした。

その他にも、雪の中で全身びしょ濡れ状態のまま一晩中監視をしたり、風の強い氷点下の深夜に地図やコンパスなど装備を全て没収されてTシャツとズボンだけで必要な情報収集や物資を現地調達しながら目的地まで辿り着くサバイバル訓練もあり、体力の限界と低体温症に苦しめられました。

教育中は一日も休日は無く、平均睡眠時間は月曜日から土曜日まで冗談抜きに一日一時間もありませんでした。
日曜日の午後だけ4時間ほどまとまって睡眠が取れるだけなので本当に大変でした。
つまり、一週間の合計睡眠時間は10時間ほどしかなかったということです。

戦闘行動では、少数で徒歩による山地潜入をして射撃位置に配置後、監視・観測を行い、必要があれば迫撃砲などの射撃要求や目標を直接射撃し、その後に素早く後退して、各分隊が相互支援をしつつ、離脱します 。

また車両行動では、P-4(軍用のランドローバーのようなもの)を幌やフロントガラスなど取り除き、偽装網(自衛隊でいうバラキューダ)でタイヤ以外を完全に偽装し、機関銃を据え付けて車両機動を行い、追撃に出てきた敵に対し迎撃しつつ後退する、迅速な遅滞行動が可能です。

ほとんど最初から最後まで、分隊単独で敵地を独立して行動します。
1個分隊3~4人で、MILAN、ミサイル、車載機関銃ANF1、通信機ER314、ベクター(双眼鏡:レーザーで距離を測定できる)、軍用GPS、OB70(個人用暗視眼鏡)、OB72(個人用赤外線熱探知暗視眼鏡)やMIRA(MILAN用赤外線熱探知暗視装置)等を扱うので一人一人が非常に高い知識と技能を必要とします。
また、実弾射撃時の緊張感や迫力は、機関銃や狙撃銃とは桁違いです。

現在、対戦車という概念がフランス軍で変更され、従来の対戦車専門の戦闘に限定されるものではなくなりました 。
なぜなら現代戦では戦車を相手にすることはほとんどなくなり、内戦や紛争地では主に敵が潜むバンカー(土嚢などで補強された機関銃などの防御陣地)や建物、岩や障害物に隠れた敵、もしくは兵士そのものを直接射撃する対人戦闘となるためです 。

実際、アフガニスタンでの戦闘では、タリバンは戦車も装甲車も持っていませんので、射撃する場合100%対人戦闘になります。
2000m近い距離の土壁の家屋に隠れた敵や徒歩で移動する敵、機関銃や狙撃してくる相手に対して射撃をして、我々は部隊の中で最も多くの敵を倒し、多大な戦果をあげることになりました。
12.7mm長距離狙撃銃(PGMヘカートⅡ)では、人員に対して1800m以上となると命中させることは難しく、しかも移動標的を命中させることは至難の技となります。
しかし、MILANは2000m離れた移動している標的に対しても精密に射撃できる能力を持っています。
でも、車両の熱源に対してロックオンして自動追尾する方式では対人戦闘は不可能で、MILANは旧式だからこそ手動で追尾して狙撃が可能となります。
しかし、これは非常に難しく射手の技量に関わってきます。
MILANは従来の狙撃銃より遥かに長距離精密射撃ができるミサイルを用いた狙撃用火器として運用されていました。 

Happy
Happy
0 %
Sad
Sad
0 %
Excited
Excited
0 %
Sleepy
Sleepy
0 %
Angry
Angry
0 %
Surprise
Surprise
0 %

Average Rating

5 Star
0%
4 Star
0%
3 Star
0%
2 Star
0%
1 Star
0%

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です