アフリカ、ジブチ共和国に派遣中、タジュラ湾に面したアルタ海岸にある「CECAP(アルタ海岸コマンドー訓練センター)」で受けることになった教育は非常に内容が濃く、主として対ゲリラ戦を訓練し、砂漠戦や海からの洋上潜入など行う、砂漠と海のコマンドー課程です。
フランス陸軍にはこの様なコマンドー課程は複数あり、世界中にあるフランス軍の拠点がある場所にその地域の特色を活かした様々な種類のコマンドー訓練センターが存在します。
コマンドーとは、イギリスやフランスなどヨーロッパ式の呼び方で、アメリカや自衛隊でいうレンジャーに相当します。
外人部隊が運営しているコマンドー訓練センターは2ヶ所あり、アフリカのジブチ共和国にあるCECAPと南米仏領ギアナにあるCEFE(ジャングル戦コマンドー訓練センター)があります。
ただ、CECAPは2008年頃に改編があり、内容も大きく変化して砂漠戦に特化し、アフガニスタンの準備訓練向けとなり、かつてのコマンドー訓練ではなくなってしまいました。
そして2011年に第13准旅団の改編でアブダビに移転してCECAPは廃止されてしまいました。(現在、第13准旅団はフランス国内に移転)
フランス正規軍が運営しているのは、フランス国内にあるコマンドー課程センターの総本山であるCNEC(国立コマンドー訓練センター)、その他にはアフリカのガボン共和国や南太平洋にある仏領ニューカレドニアにもあります。
自衛隊のレンジャーの様に1回修了すれば終りではなく、複数のコマンドー課程を受けることになり、また1回修了したコマンドー課程でも受ける機会があれば何回でも受けることになります。
日本人の古参兵の中には、まったく同じコマンドー課程を3回も修了した強者もいます。
ジブチ共和国のコマンドー課程は、教育の根幹部分は基本的に自衛隊のレンジャー教育と同じであり、そこにアフリカの砂漠地帯という特性を生かした砂漠戦と、自衛隊水陸機動団の洋上潜入課程の様な教育が合わさったものとなっています。
教育前日に素養試験(教育を受けるための体力試験)を受け、翌日の教育初日は朝5時には銃(小銃や機関銃など)と個人装備、背のうを背負っての8km武装走がスタートして、制限時間内に走りきるところから教育は始まりました。
自衛隊の様に駐屯地と演習場という区別もなく、砂漠の最果てにある訓練センターは目の前が海で、背後は険しい崖(ここで障害コースが行われる)や砂漠地帯で、海まで歩いて10秒、実弾射撃場や爆破場はすぐ隣あり、移動時間がほとんど掛からない非常に恵まれた環境となっています。
ほぼ野営に近い状況が教育の初めから最後まで続きます。
訓練内容は、全て実弾と手榴弾(実弾)を使用した小部隊戦術訓練、軍隊格闘術、応用爆破、リペリング、ロープ訓練、遊撃行動、襲伏撃、生存自活、ヘリボーン、砂漠戦、地図判読、通信、戦闘外傷救護などをあります。
また、完全武装(銃と小型リュックを背負って)での断崖絶壁の障害物コースや海の過酷な完全武装水泳障害物コース、完全武装でヘリから飛び降りて浜まで3~4kmを泳いでの洋上潜入、ボートからの水路潜入などあります。
特に格闘訓練は非常に力を入れていて、素手での格闘戦から一対複数戦、ナイフやロープを使った歩哨排除など、非常に危険な技もかなりの時間をかけてしっかりと訓練しました。
爆破訓練では、様々な特殊な爆破工作や特殊な火炎瓶の作り方など、かなり幅広く濃い内容で全て実爆を実施しました。
想定訓練は、計8個想定あり、空路潜入、水路潜入、山岳踏破、砂漠戦、襲撃・伏撃、市街地戦、人質救出、破壊工作、装甲車両での下車展開戦闘など実弾・実爆を使用して行われました。
最終的に捕虜拷問訓練で、拷問と尋問、監禁の末に何とか脱出し敵兵を素手で制圧しつつ離脱し逃げ延びるテストなど面白かったです。
裸にされ、手錠をはめられて顔を海に沈められて尋問を受け、答えなければ殴る蹴るの暴行を受けました。
更に糞尿とヘドロの沼に沈められ、顔もヘドロまみれで匍匐をやらされ、その後は光の全くない真っ暗な部屋に閉じ込められ、寒さと餓えと疲労の中、長時間監禁されました。
その末に脱出して深夜の逃避の中で遭遇する歩哨を素手で静かに制圧しつつ、出会う様々な敵兵(ナイフで襲ってくる敵や複数の敵など)を制圧していき、逃げ延びるものでした。
最終想定終了後の不眠不休、疲労困憊の中、事前説明など一切なく、いきなり始まるので当初、何が何だか分からないまま、極限まで精神的にも肉体的にも追い詰められて思考能力が低下し、とにかくこの状況から脱出することに集中して、結局全て終了して、暫くしてようやくこの訓練の意味が分かりました。
最終日にすべての訓練をやり遂げ、試験に合格した者のみが、コマンドー徽章を授与されました。
非常に過酷な内容でしたが、やり遂げた達成感と充実した教育内容で私自身も成長したことを実感でき、この教育を受けられて本当に良かったと思いました。