
私は新兵教育の助教勤務が終わって原隊復帰した後、中隊先任曹長(ADU)から、中隊武器係を命ぜられました。
武器係は本来、中隊本部要員であり、正規の武器係担当はいましたが、海外派遣や休暇、訓練等で不在している期間に代行して担当する副武器係として任命されました。
私は戦闘小隊と兼務という形で勤務することになりました。
この武器係に任命される人員は、実はかなり限られた者しかなれません。
条件が厳しく、性格的に几帳面で真面目、飲酒のトラブルや借金、金銭トラブルがないこと、自殺願望や精神的不安定ではないか、過去に犯罪歴がないかなど、銃器という危険な物を扱う上では重要なことで、身元調査などを受けて、さらに中隊長や小隊長など上司の推薦のある信頼できる者にしかなれない傾向にあります。
日頃の勤務態度や日本人として信頼されるという証だと思いました。
この武器係は結構大変で、中隊にある全ての銃火器、対戦車ミサイル発射機、その他部品、機関銃の脚等々を把握しなければなりません。
私が所属している中隊は、かなり特殊な部隊ですので、他中隊に比べて銃器の量や種類が非常に多彩でした。
FAMAS(小銃)や5.56mmミニミ軽機関銃、12.7mm重機関銃などの一般的な銃器の他にも、M4ライフル、HK417(狙撃銃)、G36ライフル、HK MP5SD(サプレッサー付サブマシンガン)、PGM へカートⅡ(12.7mm狙撃銃)、TRG42 SAKO(338ラプアマグナム狙撃銃)、7.62mmミニミ機関銃、PAMAS拳銃(ベレッタ)、HK USP(拳銃)、AK47(カラシニコフ)、RPG7(ロケット砲)、ガリル(イスラエル製ライフル)、ドラグノフ狙撃銃など、広い種類の銃器を保有しています。
北朝鮮製のAK47という珍しい銃もありました。
武器庫のどこに、いくつあるのか、海外派遣、演習、修理、貸出、警衛等々にいくつ出ているかを全て把握しなければなりません。
さらに自衛隊とは違い、武器係は24時間、武器庫の中に寝泊まりして管理しなければなりません。
武器係は、通常二人で勤務し、食事の時や修理工場へ武器を持って行く時くらいしか、金庫の様な武器庫から外に出られません。
土日も同じで、外出どころか外にも出られません。
まさに監獄です。
しかも、夕方以降消灯前までに駐屯地当直司令や当直幹部等々が不定期抜き打ちの監査があり、全ての武器の員数を点検されます。
従って、夜も気を抜けず、ゆっくり出来ません。
でも私は大して気にはなりませんでした。
自衛隊は、物品管理に関して世界一厳しい、と思っている自衛官もいるかと思いますが、それは間違いです。
フランス軍の方が駐屯地における武器管理は厳しいです。
まず自衛隊とは違い、武器搬出時に許可された人しか武器庫には入れません。
武器を出すには、武器庫の外の小窓から一丁づつ出して、その度に各人が武器管理簿に出入記録のサインをします。
さらに演習後には、まず武器を徹底的に整備手入れしてからでなければ武器格納は出来ません。
自衛隊の様に手入れは後日でとりあえず格納は、まずあり得ません。
しかもレンジャーの武器点検の様に徹底的に調べられて、少しでも汚れていればやり直しです。
綿棒でどこを擦っても黒くならなくなるまでです。
私はもう慣れましたが、それが 毎回実施されて本当に大変です。
でも、武器係に就いて、管理責任者として色々と学び経験出来たことは本当に良かったです。
この中隊武器庫も私が除隊する頃には廃止となり、連隊で一括に管理する中央武器庫に変更となりました。